この事例の依頼主
60代 男性
妻と離婚をしたいとの相談を受けました。離婚をしたい場合、お互いの協議が整えばそれでいいのですが、そうでない場合は家庭裁判所への停(いわゆる裁判所に間に入ってもらった上での話し合い)の申し立てをして、それでも折り合いがつかないときは離婚訴訟(いわゆる裁判所に決めてもらう)を提起します。今回も離婚訴訟までやらざるを得ませんでした。争点は妻が多額の金銭の要求を譲らないからです。理由は夫の預金通帳に数千万円の現金があるのでそれを半分に分けろというものでした。妻の請求額は3000万円を超えていました。
財産分与は簡単に言うと同居をしている間に貯めた財産は、その名義のいかんにかかわらず(通帳がたとえ夫の名義のものでも)二人の共有財産なのでこれを公平に分けるというものです。夫の通帳には多額の金銭が入っており、しかも婚姻期間中に入金されたものでした。しかし、数ある口座間の長年にわたる金銭の出入りを細かく見ていくと、その多くが実母の口座から振り込まれたものでした。そこでその理由を調査すると、実母が軽い老人性痴呆症になってきており、投資詐欺などに騙されそうになったことから、少しずつ母の口座から息子である夫の名義に現金を移していたことが分かりました。しかも、一度に多額の現金を移転すると贈与税などの問題も露見してしまうので長期間にわたって移転していたようでした。そこで、裁判では口座間の現金の移転を裁判官にわかりやすく示し、夫婦の共有財産でないことを証明しました。結果はほぼ大部分の金銭が夫婦共有ではないとの裁判官の心証を得ることができ、妻は夫に有利な条件で和解を飲まざるを得なくなり、和解で訴訟は終了しました。夫が払った金額は200万円で済みました。
今回の事案は、こちらが夫婦共有の財産でないこと(特有財産といいます)を立証しない限り、3000万円以上の金銭を出さなければならないかのような事案でした。実際に夫は当初弁護士をつけずに争っていましたが、立証に失敗すれば相手のいうような金銭を取られる結果となっていたに違いありません。この事案については綿密な口座の調査が実を結んだ事案で、我ながらよくやった事案だと自負しております。財産分与については単に半分に分けるだけではないことがよくあるので、まずはご相談ください。