この事例の依頼主
70代 女性
相談前の状況
これも古い事件であまり記録がないので、その点はご了承ください。この方、相談時には、後遺障害は出ているけれども14等級と言われている、相手方に弁護士がついたので交渉をしてほしいという話で来られました。しかし、話を聞いてみると足に人工関節を入れたと話されています。14等級は明らかにおかしい例でした。実際の文書がもう手元にないのですが、確か最初の後遺障害診断書には人工関節の挿入が記載されていなかったように記憶しています。
解決への流れ
人工関節の挿入は14等級ではありません。一見、人工関節は元通りに機能が戻っているように見えますが、やはり人工物ですから、さまざまな不具合はありますし、場合によっては破損のため交換も必要になります。そのため、人工関節の挿入は、入れていない方の足の同じ関節の「半分以下」になっていれば「関節の用を廃したもの」、半分以下になっていなくても入れただけで「関節の機能に著しい障害を残すもの」となるのです。そこで、当職は、主治医の先生と面談し、人工関節を入れたことと、関節可動域制限があることを正確に記載してほしいとお願いをして、後遺障害診断書を再度作成していただきました。その上で、後遺障害第10級10号相当であると主張しました。ご本人の早期解決の意向もあり、最終的に14等級水準を超える訴外和解が成立いたしました。
この事例、自転車と歩行者の事故のため、自賠責保険が介入しなかった事例です。自賠責保険は後遺障害認定の専門機関を有しているため、ある程度この専門機関が出した後遺障害等級認定は交渉の前提と出来ます。もっとも、この方の場合は自賠責保険が介入しないため、後遺障害等級についての前提は共有できません。その場合は、どれだけ弁護士が後遺障害診断書及びご本人の症状を読み切れるかにかかってきます。どうして最初の後遺障害診断書には人工関節の挿入が入っていなかったのか、不思議に思われるかもしれませんが、実はお医者さんには「人工関節でどういう形であれ治っているのだから、後遺障害にはあたらない」と考えられる方が結構います。しかし、実際には、自賠責の後遺障害認定、労災保険の後遺障害認定は、「治っているか」ではなく、「生活に制限があるか」で考えますから、意外なものが後遺障害に該当します。ところが、お医者さんは医学の専門家ではあっても、自賠責保険や労災保険の専門家ではないので、書き落としが意外にあるのです。もっともこれは弁護士も同じです。自賠責保険や労災保険の専門家ではあっても、医学の専門家でない以上、よく見たら該当するはずの後遺障害が抜け落ちていることはありえます。お医者さんだけの問題ではありません。弁護士がお医者さんに対応する場合、上記の書き落としについてきちんと書いてもらわないといけないのですが、医学の専門家に意見を言うのですから、こちらも専門的な知識がある程度ないといけません。下手をすると、素人が何を言う、と思われて、患者である依頼者にも不利なことになります。ですから、割と積極的に主治医の先生に会いに行く当職のスタイルは珍しいかもしれません。でも、やっぱり直接主治医の先生と会う方が、いろいろなことがわかりますから。有利な点も、不利な点も。また、この方の事例は、確か相手方が保険をかけていなかった事例だったと記憶しています。そのため、ご本人の意向もありますが、訴訟までは行わず、あくまで早期解決をいたしました。保険会社が入っていれば、事実上保険会社から賠償金は支払われますから、回収が出来ないということはありません。これに対し、相手に保険会社が入っていない場合は、回収可能性も考えて対応する必要があります。いくら良い判決をもらっても、回収できなければ絵に描いた餅ですから。この事例は、当職の医学的知見もあって比較的早期に良い解決が出来たということで、ご紹介したいと思い取り上げました。