この事例の依頼主
30代 女性
30代で夫と子供1人で生活をしているAさんは、従業員が10名ほどの不動産仲介業を営む会社(X社)で事務として働いておりました。X社は、W社長とその奥様のQさんが経営をしている会社であり、Qさんは、X社の専務取締役をしておりました。社員旅行で伊豆に行った際に、夜の宴会でお酒がかなり入ったW社長は、妻のQさんの目の前でNさんに対してキスを迫ったり、胸を触るなどのセクハラ行為を他の社員の目の前で行いました。Aさんとしては、その場の空気を乱したくないと思ったため、笑ってごまかしておりました。社員旅行から帰ってきた次の日からQさんのAさんに対する態度が一変しました。ことあるたびにAさんの仕事上のミスを執拗に指摘してくるようになったのです。また、Qさんがその仕事上のミスをW社長に逐一報告をすることになり、W社長のAさんに対する評価もどんどん下がる一方でした。ある時、会議室にW社長から呼び出され、「君は、旅行のときの出来事について、私をセクハラで訴えようとしているのか」などと事実無根の話をされ、「会社の社長に対して訴えをしようとしている人間は会社にはいらない。明日から会社に出社しなくてもよい」と言われました。
Aさんは事実無根のことで会社をクビにされたと考えて、どうしたらよいかわからなくなり、当職のところに無料法律相談ということでお越しになられました。当職からアドバイスをさせていただいたのは、解雇の理由を後で捻じ曲げてくる可能性があったことから、解雇理由通知書を出すように求めた方がよいという話をさせていただきました。Aさんは、当職のアドバイスに従って、解雇理由通知書を求めたところ、会社側が解雇理由として掲げてきたのは、Qさんに指摘されていたAさんの仕事上のミスがすべて記載されておりました(それ自体も誇張された事実でした。)。W社長が話をしていたこととは全く異なる事実が記載されておりました。その後、当職が入って会社側と交渉をしましたが、W社長は一切、交渉の窓口に出てくることはなく、専務であるQさんが窓口に出てきて、一切、解雇の撤回やセクハラに対する謝罪等を会社としてする意図がなかったようでした。これ以上話をしても拉致があかないと考えて、労働審判の申し立てを起こすことにいたしました。労働審判の期日では、Wさんのセクハラの事実も主張させてもらい、Wさんも細かい点では違いがあるものの、さすがにすべてを否定することはなく、そのことについては謝罪を受けることができました。もっとも、解雇については、そのこととは別であるという話で一切解雇の撤回や解決金の支払いによる合意退職ということには耳を傾けませんでした。当職から訴訟になれば、セクハラについても不法行為として慰謝料請求をするつもりであるし、訴訟の中では証人尋問をし、目撃していた社員を法廷に呼び出すつもりであるという話をしたところ、訴訟を長引くことを嫌がったW社長が一定の解決金を支払う用意があるということを話ししたので、第2回期日で一定の解決金を支払ったうえでの合意退職の条件を詰めることになりました。当職からは、解雇理由通知書に挙げられている解雇理由は、事実誤認であり、事実を捻じ曲げた評価をしているという主張し、仮に、その事実が認められたとしても、解雇をするほどの事由ではないこと、実態としてはセクハラの事案をもみ消そうとしてAさんを解雇した事案であり、これによって解雇が認められるというのであれば、労働審判ではなく訴訟で争うことを覚悟しているという強い意志を示しました。そうしたところ、会社から、解雇無効のときの解決金の水準である月額給与(28万円)の6か月分とW社長個人から、セクハラに対する慰謝料として100万円を支払うという提示がありました。Aさんとしても、これ以上長引かせても仕方がないと判断をし、上記案で和解を成立させることができました。
Aさんの勝訴的和解は、最後まで争う姿勢を見せたことであると思われます。通常解雇が無効とされた場合の解決金は給与の3〜6か月が相場とされていますが、セクハラの事実のもみ消しが実質的な理由であるにもかかわらず、形の上での解雇事由を整えて解雇をすることの不当性を粘り強く主張したことで、裁判所に相場額の上限の解決金を支払うべきと判断してもらったように思われます。セクハラについても、多くの人の目の前で行われていたため証人もいることから泥沼の裁判になることをW社長が望まなかったという点も解決を早くした要員になったと思われます。