この事例の依頼主
30代 女性
私の夫が19歳の女性と不貞をしていることがわかりました。私はこの女性に、夫との交際をやめるよう求めましたが、女性は不貞関係を否定し、かつ、私の要請を無視して、夫との交際を継続しました。私は、女性が未成年であることから、大ごとにするつもりはなく、とにかく謝罪してもらい、夫に近づくのをやめてもらいたかったのですが、女性の態度があまりにも不誠実なため、慰謝料を払ってもらいたいと思うようになりました。ただ、相手方が未成年者ですので、今後どのように進めたらよいか、当方は成人として何か気を付けるべきことがあるか、気になりましたので、弁護士に相談しました。
弁護士によると、相手方は19歳であり、不貞の意味は理解できること、また、不貞によって、私が夫の配偶者としての権利を侵害され、精神的苦痛を被ったことにつき、不法行為が成立し、損害賠償責任が発生することから、未成年者に対して責任追及はできるとのことでした。他方で、未成年者との間で慰謝料支払契約を締結したり、訴訟をしたりする場合は、法定代理人である親御さんとの間でする必要があるため、「親に内緒にするかわりに、○○円払え」というような脅迫的な持ち掛けをしたり、未成年者が契約の内容や法的効果等について誤解した状態で話を進めないよう注意しながら交渉する必要があるとのことでした。もとより、私も、後になって相手方やその親御さんから、「脅迫された」等と言われたくありませんし、ましてや相手方を怖がらせたり、嫌がらせをしたいわけではありませんでしたので、弁護士の見解に同意し、交渉をお願いしました。弁護士は、相手方女性が述べている事実が虚偽であることを指摘し、反省を促す書面を何回か送ってくれましたが、相手方は一向に非を認めようとしませんでした。そこで、何回目かに、今後は慰謝料請求訴訟を提起し、事実を明らかにしたいこと、相手方が未成年者であり、訴訟能力がないため、訴状はご両親宛てに送らざるを得ないこと等を伝えたところ、相手方は態度を一変させ、「慰謝料を300万円払うから、親には絶対に内緒にして欲しい」と連絡してきました。私は、正直、親にばれるのは嫌だからというような理由で態度を変え、嫌々慰謝料を払ってもらうぐらいなら、金額がいくらになろうと、むしろこのまま訴訟をして、しっかり反省してもらった方が、この女性のためになるのではないかと思いました。しかし、その後、弁護士から、相手方女性が謝罪したいと言っていること、300万円という額も、自らの意思でその金額に納得し、支払いたいと申し出ていること等を聞き、本当に心から謝罪して責任を取るという気持ちがあるのなら、話し合いで終わらせようと思い直しました。一方、相手方女性は未成年者であり、一括払いの資力がないことは理解できましたので、10年以上かかりますが、毎月2万円の分割払いとすることに応じました。結局、細かな条件を話し合って決めている間に、相手方女性が誕生日を迎え、成人しましたので、親御さんを巻き込むことなく、そのまま慰謝料支払契約を締結し、公正証書を作成して終了しました。
本件は、相談者の夫の不貞相手が未成年者であり、色々と気を遣うことの多い案件でした。未成年者が相手方の場合、任意の交渉で慰謝料支払について契約するにしても、慰謝料請求訴訟を提起するにしても、未成年者には行為能力や訴訟能力がありませんので、これらのことをしようとすれば、どうしても法定代理人である親権者に連絡せざるを得ません。そのことを相手方に伝えたところ、すぐに「慰謝料として300万円を支払うので、親には絶対知られないようにして欲しい」と連絡が来ました。不貞慰謝料として、300万円というのは、事案にもよりますが、なかなかよい金額ではあります。しかし、ここで、何の考えもなしにはいそうですかと応じてしまうと、後になって、「親に知らせると脅されたので、仕方なく応じた」等と言われる恐れがありますし、「300万円」という金額も、どういう意向でその金額を提示しているのか、相手方自身に何か誤解などがないか、確認しておく必要があると考えました。そこで、相手方には、万一、親に内緒にしてもらうのと引き換えにお金を払うという意識なのであれば、それは受け取れないことを伝えました。また、「300万円」という金額についても、事前に相談者の了承を得た上で、一般的な話として、事案にもよるが、不貞慰謝料で「300万円」というのは、訴訟でもそこまで認められないことが多い金額であること、そういったことを踏まえた上で、本当に自分で納得して提示する金額なのか再考して欲しい、その結果、もし、異なる金額を提案し直したいと思うのであれば、率直にそう言ってもらって構わない、と伝えました。数日後、相手方から、「自分でも色々調べてみて、不貞慰謝料の金額については、先生がおっしゃっていたように、多めの金額なのだということは、わかった。それでも、自分のこれから先の人生を考えた時に、この件についてはきちんと自分でけじめをつけて進んでいかないといけないと思った。だから、300万円を払いたい。ただ、どうしても分割でないと無理なので、その点はご配慮いただきたい。」と回答がありました。相手方の態度は当初と違い、とても真摯なものでした。早速これを相談者にも報告したところ、相談者は300万円を分割払で受け取ることに同意しました。本来、被害者としては、損害賠償金を分割払いで長期にわたり支払われることは、途中で不払いになる恐れもあること、また、支払いが続く限り、自分が受けた被害を否応なしに思い出させられ、支払が終わるまで、ある意味加害者とのつながりも切れない、ということでもありますから、通常は、回避したいものです。月2万円の支払いとなると、全額返済するには12年以上かかりますが、相談者は、未成年者に対する配慮の必要性を十分ご理解下さり、この長期の分割にも快く応じて下さいました。その後、細かい条件を話し合っている間に、相手方は誕生日を迎え、成人しましたので、親御さんを巻き込むことなく、契約を成立させ、公正証書も作成しました。本件は、交渉開始時点で、相手方が既に19歳8か月程度と、ほぼ成人と言っても過言ではありませんでしたが、もし相手方が女子高生など、もっと年齢の低い未成年者であったら、当方も最初から親権者に連絡を取ることになったでしょうし、逆に、未成年者の親御さんから、相談者の夫が「既婚者でありながら未成年者をたぶらかして関係を持った」と厳しく追及される可能性も高かったでしょう。その意味では、本件は、早期に、平穏に解決できた案件と言えます。