犯罪・刑事事件の解決事例
#医療過誤

急性白血病で一般の病院に入院した25歳の女性が、入院3日目に脳出血で死亡した事案

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小林 洋二 弁護士が解決
所属事務所九州合同法律事務所
所在地福岡県 福岡市東区

この事例の依頼主

20代 女性

相談前の状況

病院は、入院させただけで何の治療もしなかった、もし自分の病院で何もできないのであるならば血液内科のある大きな病院に転送してくれればよかったのに、というのが遺族であるお母さんの訴えでした。これに対して病院側は、患者が受診したのは金曜日の朝、血液検査で急性白血病であることが分かったのはその日の午後であり、そこから転送しようとしても受け入れてくれる病院はない、やむを得なかったのだとして責任を否定していました。提訴前の交渉が物別れに終わり、提訴やむなしという段階で、担当していた弁護士からの要請で、共同受任をすることになりました。

解決への流れ

提訴するにあたって気になったのは、本当に受け入れてくれる病院はないのだろうか、ということでした。その段階のデータを整理して、市内の血液内科を有する総合病院に対し、「このような患者の受入を要請された場合どう対応するか」を問う弁護士会照会を行いました。その結果、ほとんどの医療機関から受け入れ可能との回答を得ることができました。訴訟では、病院側は、「受け入れるというのは建前で、実際に要請したら週明けまでそちらで様子をみろと言われるに決まっている」、「転送前に脳出血で死亡することを予見しなければならないほど差し迫った容態ではなかった」といった反論を展開しましたが、地裁、高裁とも、血液内科のある病院への転送義務を認め、遺族側の勝訴となりました。

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小林 洋二 弁護士からのコメント

この事件の高裁判決は、判例タイムズ1256号に掲載されています。一番印象に残っているのは、被告病院の院長が、「受け入れるという回答は建前に過ぎない」と証言した時の悔しそうな表情です。そういった経験を実際にしたことがあるのでしょうし、本件でもそうであった可能性は否定できないと思います。しかし、高裁判決は、そうである可能性を指摘しつつも、だからといって転送するための努力をしないでいいということにはならない、として病院の責任を認めました。院長の気持ちは分からないでもありませんが、法的な評価としては、有責と言わざるをないと思います。残念だったのは、地裁、高裁とも、急性白血病の予後が悪いことを理由に、比較的低額の慰謝料しか認容しなかったことです。このような場合、逸失利益をどれほど認めるかは別として、少なくとも死亡慰謝料相当額は認容されるべきだというのが遺族側の主張だったのですが、認められませんでした。裁判所としては、責任論の評価が微妙だったので、損害の評価でバランスをとったということなのかもしれません。